HATEMARU ET
情コミ学(SF)
フェミニズムSF
講義「娯楽作品から見られる女性像」
講師 小谷真理先生
私が今まで見た映画の中で登場したSF的なヒロインは、『ヘルタースケルター』で沢尻エリカさんが演じた、素性不明の人気ファッションモデル、りりこである。
りりこは全身を作り変えるほど危険な美容整形手術を施しているという重大な秘密を抱えていた。りりこは、その美貌でトップスターになっていくが、美容整形の激甚な副作用と仕事のストレスで、心身共に蝕まれていく。
結婚を狙っていた御曹司の裏切り、自身を整形した美容クリニックの隠された犯罪を追う者、生まれながらに美しいがゆえ美に執着しない「期待の新人」である後輩・こずえが登場し、りりこは窮地に追い込まれていき、現実と悪夢をさまよう。そして付き人の内部リークもあり美容クリニックの違法行為が発覚し、りりこの全身整形の事実も公開され、マスコミの格好の対象にされたりりこは記者会見を行うことになる。そのとき既に、彼女の身体も心も崩壊状態で、記者会見直前にえぐり抜いた自らの左目を楽屋に残し失踪する。
数年後、海外のロケに出ていたこずえはスタッフに連れられてフリーク・ショーを見学する。そこで出会ったのは、自らを見世物として出演している傷だらけのりりこの姿だった。
これが『ヘルタースケルター』のあらすじであるが、すでに映画の冒頭からりりこ自身の身体を蝕む副作用(肌に浮かび上がるシミ)が描かれており、女性の恐怖心を煽っていた。どんどん定期的なメンテナンスを行っていかないと、あっというまにゾンビのような姿になってしまうという設定になっている。全身美容整形は、単に身体の老化のスピードを早めるだけではなく、美の衰えは同時に精神、理性、感情など、なにもかも巻き込んで、たちまち「死に至る病」へと向かわせるのである。私はこの作品は「サイボーグ・フェミニズム」というかたちで展開されたと考え、SF的だと思った。
(壺内えみり)
参考文献